総合型選抜(旧AO入試)は、近年、入試制度の見直しが進み、帰国子女にとっても選択肢のひとつとして検討される機会が増えています。
一方で、「帰国子女枠」「総合型選抜」「一般入試」など、複数の制度が並立しているため、それぞれの違いや特徴が分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
また、総合型選抜は「昔のAO入試」とは評価の仕組みが大きく変わっており、学力の扱い方や評価ポイントも大学・学部ごとに異なります。
制度の名称だけで判断すると、実際の中身が見えにくいのが現状です。
このページでは、海外子女・帰国子女のご家庭向けに、
- 総合型選抜(旧AO入試)の基本的な仕組み
- 帰国子女入試との違い
- それぞれの入試で評価されやすいポイント
- 中心に、入試制度の全体像を整理しています。
まずは制度そのものを正しく理解することで、どの選択肢が考えられるのかを冷静に見極めるための土台としてお役立てください。
総合型選抜(AO入試)とは?


「AO入試って、正直よく分からない」「なんとなく不安」という印象を持っている方も多いかもしれません。
「総合型選抜(旧AO入試)」とは、筆記試験だけでなくその人の考え方・行動・将来のビジョンなどを総合的に評価する入試方式です。
学力テスト中心の入試とは違い、志望理由書や面接、小論文、探究活動の成果などを通じて「どんな力を持っているか」「どんな学びをしたいか」を大学に伝えます。
かつては「AO入試」と呼ばれていましたが、近年の入試改革で仕組みが大きく変わり、今では国公立・私立の多くの大学が導入しています。
旧AO入試との違い(制度変更で何が変わったのか)
かつての「AO入試」は、大学ごとに基準がバラバラで、“面接での印象”“志望理由の熱さ”が重視されることも多く、どこか「自由度の高い入試」というイメージがありました。
当時「一芸入試」なんて言われて、いろんな芸能人が利用したことが話題になっていたので、あまりいいイメージは持っていませんでした。
しかし現在の総合型選抜は、国の方針で仕組みが大きく変わり、かなり“本格的な入試”になっています。
① 評価基準が明確になった(=何を見られるかが分かりやすい)
まずは、「昔のAO」と「今の総合型選抜」でいちばん大きく変わったポイントから見ていきます。
それが、どんな基準で受験生を評価するのかという「評価のものさし」です。
以前のAO入試は、大学ごとのルールがバラバラで、何を準備しておけば良いのか分かりにくい面がありました。
いまの総合型選抜では、文科省が示す共通の視点をもとに整理されているため、「何を見られるのか」がかなりはっきりしてきています。
| 昔のAO | いまの総合型選抜 |
|---|---|
| 大学ごとの“独自ルール”が多かった 何を準備したらいいのか分かりにくい 学校ごとの「自由度が高い」 “熱意”が目立ちやすい入試 | 文科省が示す3つの視点で整理されている 主体性(どんな経験をしてどう動いたか) 多様性(どんな価値観を持ち、人とどう関わるか) 協働性(チームや社会でどう力を発揮するか) |
つまり、「提出物と面接を通して、自分の行動の根拠を説明できるか」が重視されるようになりました。
② 学力の提示が必要になった(=“学力不問”ではない)
総合型選抜は、昔のAOのように「学力は関係ない」方式ではありません。
今は、書類や面接に加えて、何らかの形で学力の裏付けを示すことが前提になっています。
やり方は大学ごとに違いますが、次のいずれか(複数併用もあり)で確認されるケースが多いです。
- 評定(内申)の基準を設ける
- 共通テストの一部科目を利用する
- 大学独自の小論文や基礎学力テストを課す
- 探究レポートや課題で思考力・表現力を評価する
- 一部で外部スコアや科目成績を参考資料として認める(IB科目成績、APスコアなど)
③ 提出書類がより“探究型”に
実は、昔の志望理由書は極端に言うと「この学部で学びたいです」「興味があります」など、比較的ふわっとした内容でも通ることがありました。
それが、いまの総合型選抜になると“根拠となる行動”が必要になります。
具体的には
- 学校や個人的な探究活動
- ボランティアやプロジェクト
- 海外での学びや経験
- 英語資格やコンテスト
など、「自分で動いた証拠」が書類や面接で問われるようになっています。
単に経験を並べるのではなく、「なぜその行動を選んだのか」「そこから何を考えたのか」が問われるのが、現在の総合型選抜の特徴です。
④ 国公立大学にも徐々に広がってきた!
総合型選抜は、私立だけの方式ではありません。
いまは国公立にも着実に広がっています。
募集人員ベース(2025年度予定)
国立:一般78.7%/総合型7.9%/学校推薦型13.4% =「およそ1割弱」が総合型の枠。従来の“私立だけ”から明確に拡大。
※参照: Between
入学者数ベース(2024年度実績)
総合型選抜の入学者は、国立5,981人、公立1,661人、私立約9.1万人で、いずれも前年より増加。
総合型+学校推薦型(年内入試)の合計は入学者全体の約51%に達しています。
※参照:大学ジャーナルオンライン
実施大学の裾野
文科省公表データでも、国公私立の幅広い大学・学部で総合型が実施されていることが確認できます(実施大学数・学部数ともに前年から増加)。
地方国公立の地域貢献型・特色型の学部で導入が進んでいるのが近年の流れです。
※参照:文部科学省+1
ざっくり言うと、私立は“年内入試(総合型+推薦)”が多数派、国立は依然として一般が主軸。
ただし総合型の比率はゆっくり拡大中。という認識です。
年内入試の存在感が高まる一方で、国公立では依然として一般入試が主軸であり、併願や組み合わせを前提に考える家庭が多いのが実情です。
帰国子女入試と総合型選抜の違い


帰国子女入試と総合型選抜は、どちらも「学力試験だけでは測れない力」を見たいという点では共通しています。
ただし、出願資格や評価の考え方には制度上の違いがあります。
帰国子女入試は、海外での在学歴や英語力を前提にした「特別枠」です。
特別枠なので、それ相応の「条件」が設けられています。
各大学の帰国子女枠の条件例
| 大学名 | 継続在籍年数 | 海外高校卒業 | 帰国後の制限 | 単身留学 | 統一試験※ |
|---|---|---|---|---|---|
| 東京外国語大学 | 2年 | 必要 | 2年未満 | 不可 | 望ましい |
| 慶応義塾大学 | 2年 | 必要 | 記載なし | 可 | 必要 |
| 国際基督教大学 | 中高2年 | 不要 | 2年未満 | 可 | 必要 |
| 上智大学 | 中高通算2年 | 不要 | 記載なし | 可 | 場合により必要 |
| 早稲田大学 | 2年 | 必要 | 1年未満 | 可 | 不要 |
一方の総合型選抜は、国内外の生徒すべてに開かれた「自己PR型の一般入試」としての性格が強まっています。
また近年では、「帰国子女枠撤廃/統合」という動きも出ており、今後は枠だけで選べる時代から「何をどう示せるか」がさらに重要になってきそうです。


出願資格の違い(海外在住歴・英語資格など)
帰国子女入試は、「海外でどのくらい在学していたか」や「どの時期に帰国したか」といった「経歴の条件」が重視されます。
多くの大学では、3年以上の海外在学歴や、帰国後〇年以内といった明確な出願条件が定められています。
つまり「海外経験そのもの」が受験資格につながる仕組みです。
一方、総合型選抜(旧AO)は、海外在住歴がなくても出願可能。
重視されるのは「どんな経験をしてきたか」よりも、その経験をどう考え、どう行動につなげたかという点です。
英語力や留学経験があることは強みになりますが、必須ではありません。
また最近では、大学によっては帰国子女枠と総合型選抜を一本化する動きも出ています。
たとえば、「海外経験があっても、帰国子女枠ではなく総合型選抜で評価する」大学も増えており、今後この流れはさらに加速しそうです。


評価されるポイント(英語力・多文化経験 vs 探究・志望動機)
帰国子女入試と総合型選抜では、評価されるポイントが大きく異なります。
どちらも“自分らしさ”を伝える試験ではありますが、大学が見ているのは「何を評価軸にしているか」の部分です。
帰国子女入試では、海外での学びや多文化環境での経験が評価の中心になります。
- 英語力(英検・TOEFLなどのスコア)
- 異文化理解、国際的な視野
- 現地校やインターでの学びの姿勢
こうした「海外経験そのもの」が強みになります。
面接でも「海外で何を学んだか」「日本でどう活かすか」といった質問が多く見られます。
一方の総合型選抜では、海外経験よりも「自分で考え、行動したこと」が重視されます。
- 興味や課題意識をもって行動した経験(探究・ボランティアなど)
- 自分の志望理由や将来像を言語化できる力
- 活動を通してどんな成長をしたか
つまり「英語ができるか」よりも、「その経験をどう考え、どう形にしたか」という思考の深さ・再現性がポイントです。
どちらが向いている?(比較表つき)
帰国子女入試と総合型選抜は、どちらが「上位」や「有利」というものではなく、子どもの経験や性格に合うかどうかで選ぶのがポイントです。
帰国子女枠は海外での生活や英語力を前提とした制度、総合型選抜はその経験をどう活かすかを問う制度。
「海外経験をどう伝えたいか」で、どちらに軸を置くかが決まります。
ここでは、制度上の違いを分かりやすく整理するために、一般的な傾向をまとめています。
実際の受験では、大学・学部ごとの要件によって判断が変わる点に注意が必要です。
| 比較項目 | 帰国子女入試 | 総合型選抜(AO) |
|---|---|---|
| 出願条件 | 海外在学歴・帰国時期などの制限あり | 制限なし(誰でも出願可能) |
| 評価される経験 | 海外での学び・英語力・多文化理解 | 探究・課外活動・自己分析・表現力 |
| 必要な英語資格 | 英検・TOEFL・IELTSなどの提出が多い | 英語資格は任意。 活動内容や文章力重視 |
| 面接・書類で見られる点 | 海外経験をどう活かすか | 興味関心→行動→学び→ 志望理由の一貫性 |
| 向いているタイプ | 海外での学びや体験を そのまま活かしたい子 | 自分の興味を掘り下げ、 考えを表現したい子 |
この表はあくまで「一般的な傾向」を整理したものです。
実際には、大学や学部によって評価の基準も異なり、どちらの入試方式が向いているかは一人ひとり違います。
また、帰国子女枠と総合型選抜はどちらか一方に絞らなければならないものではありません。
両方の出願条件を満たすケースもあり、併願や併用でチャンスを広げることも可能です。
ただし、その判断は家庭だけで行うと見落としが生まれやすい部分だし、判断しにくい部分でもあります。
出願資格や評価の考え方を早めに整理しておくことで、受験全体の見通しが立てやすくなります。
出願資格や準備時期を早めに整理しておくことで、ムリや後悔のない受験計画を立てやすくなります。
よくある質問Q&A


- 総合型選抜って帰国子女にとってどんなメリットがあるの?
-
総合型選抜は、テストの点だけでなく、海外経験や興味関心、将来のイメージまで含めて見てもらえる入試です。
帰国子女枠がない大学・学部にも挑戦しやすくなり、一般入試だけに頼らずに受験の選択肢を増やせるのが大きなメリットです。
- 帰国子女枠の対象外だけど、総合型選抜は利用できる?
-
利用できます。
帰国子女枠のような「在学年数」「帰国時期」の条件は基本的になく、海外経験の有無にかかわらず出願できる方式です。
ただし条件や方式は大学ごとに違うので、必ず最新の募集要項と学校・専門機関の両方で確認しておくと安心です。
- 帰国子女入試と総合型選抜は併願できる?
-
大学によりますが、併願できるケースもあります。
同じ大学内で方式を分けられる場合もあれば、「どちらか一方のみ」という大学もあります。
ルールを家庭だけで判断せず、志望校の募集要項と高校・専門塾の両方で確認しておくのがおすすめです。
- 学校推薦型選抜(推薦入試)との違いは?
-
学校推薦型選抜は、高校の推薦が必要で、評定や校内での活動が重視される入試です。
総合型選抜は、本人が主体になって志望理由や活動内容を整理し、大学にアピールする入試です。
どちらを軸にするかは、高校側の方針や成績状況も含めて、早めに進路指導の先生と相談して決めるとよいです。
- いつまでに何をしたらいいの?
-
実際のスケジュールは志望校や状況によって異なるため、まずは各入試方式のおおまかな流れを把握しておくことが大切です。
- 海外でもできる準備ってある?
-
あります。
志望校の情報収集や、現地校・インターでの学びをていねいに続けること、活動の記録を残しておくことは大きな準備になります。
あわせて、日本語の読み書きや、オンラインでの無料相談・無料体験を活用し、「今の時点で何をしておくとよいか」を専門家と一緒に確認しておくと安心です。
まとめ:帰国子女入試と総合型選抜、それぞれの特徴を整理しよう


総合型選抜(旧AO入試)と帰国子女入試は、どちらも「テストの点だけでは見えない力」を評価する入試ですが、出願資格や評価の考え方、前提条件には大きな違いがあります。
帰国子女入試は、海外での在学歴や英語力といった「これまでの環境」を前提とした特別枠です。
一方、総合型選抜は、国内外すべての生徒に開かれた入試として、「経験をどう考え、どんな行動につなげてきたか」を重視する方式へと変化してきました。
近年は、帰国子女枠を縮小・統合する大学がある一方で、総合型選抜の枠を広げる動きも見られます。
そのため、「どの入試方式が使えるのか」「どこまで選択肢を広げられるのか」を整理すること自体が、以前より難しくなっているのも事実です。
まずは制度の違いを正しく理解し、どの入試方式が検討対象になるのかを冷静に整理することが、無理のない受験計画につながります。
具体的な準備の進め方やサポートの選び方については、別記事で詳しく紹介していますので、必要に応じて参考にしてください。




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